15年住宅ローンの「流動性の罠」:安全に見える選択が最大のギャンブルになる理由
15年住宅ローンは本当に「安全」なのでしょうか。含み益(エクイティ)に縛られ、手元の現金がなくなるリスクを解説します。キャッシュフローを優先して真の自由を手に入れる方法を提案します。
私は3年間、自分の15年住宅ローンがいかに賢い選択かを周囲に自慢して回っていました。
「利息を何千万円も節約できる」「50歳になる前に完済できる」と、得意げに語っていたものです。
でもある日、突然届いた高額な医療費の請求書と、数ヶ月続いた仕事の停滞が私に冷酷な現実を突きつけました。
家の壁にどれだけ含み益(エクイティ)があっても、それを削って食べることはできないという事実です。
多くのプロフェッショナルが陥る「15年ローンの罠」について、今日は少し本音で話をさせてください。
最も高くつく「節約」の正体
多くの金融インフルエンサーは、支払う利息の総額を絶対的な指標として扱います。
彼らは「30年ローンは銀行を儲けさせるだけだ」と言い、15年ローンを強く推奨します。
確かに数字の上では利息は減りますが、その代償として失っている「資本のコスト」を見落としてはいけません。
15年ローンは、実質的に「流動性ゼロの強制貯金箱」にお金を放り込んでいるようなものです。
例えば、5,000万円の家をローンで買う場合を考えてみましょう。
15年ローンなら月々の支払いは約35万円、30年ローンなら約22万円になるとします。
この月々13万円の差額は、単なる「節約」ではありません。
あなたが自由に動かせたはずの現金を、石膏ボードと断熱材に変えてしまっているのです。
私はこれを「石膏ボード貯金口座」と呼んでいます。
急な出費が必要になったとき、その貯金箱から10万円を引き出すには銀行の再審査や手数料が必要になります。
皮肉なことに、家計が本当に苦しいときほど、銀行はその許可をくれません。
あなたは「壁」を食べて生きられない
もし明日、あなたが仕事を失ったらどうなるでしょうか。
銀行は、あなたの家にどれだけ含み益があるかなど一ミリも気にしません。
彼らが気にするのは、来月の支払いが予定通り行われるか、その一点だけです。
15年ローンを選択することは、自ら生存のハードルを上げていることに他なりません。
月々の固定費が高ければ高いほど、トラブルに見舞われた時の「逃げ切り期間」は短くなります。
先日、知人のアリス・バルダロスから相談を受けました。
彼はITエンジニアとして世帯年収2,000万円を超えていましたが、8,500万円のローンを15年で返済していました。
「50歳までに借金ゼロ」という目標に誇りを持っていたのです。
しかし、妻の仕事が半年間途絶え、同時に子供の矯正歯科で予想外の出費が重なりました。
アリスの手元には4,000万円以上の住宅含み益がありましたが、自由に使える現金は100万円を切っていました。
月々約80万円という重い支払いが、彼を精神的に追い詰めました。
資産はあるのに日々の支払いに窮する、いわゆる「資産家ホームレス」のような状態です。
結局、彼は住宅ローン計算機を使って、30年ローンに借り換えた場合のシミュレーションを行いました。
その結果、月々の強制的な支払いを約45万円まで下げられることが分かったのです。
アリスは今、余裕がある月には以前と同じ額を返済していますが、苦しい月には支払いを抑えるという「呼吸ができるスペース」を手に入れました。
「30年」が「15年」より安全である理由
「30年ローンは借金が長引くから危険だ」という意見は、論理的ではありません。
なぜなら、30年ローンには「15年で完済できるオプション」が含まれているからです。
逆に、15年ローンには「支払いが苦しい時に30年プランに変更する」というオプションはありません。
| 項目 | 15年ローン | 30年ローン |
|---|---|---|
| 月々の支払額 | 高い(強制) | 低い(最低限) |
| 返済の柔軟性 | なし | あり(追加返済自由) |
| 失業時のリスク | 非常に高い | 比較的低い |
| 投資への余力 | 少ない | 多い |
30年ローンの低い支払額は、人生の不確実性に対する「保険」だと考えてください。
住宅ローン計算機で、自分の選択肢の差を確認してみてください。
30年ローンを組み、15年ローンのつもりで差額を投資に回す手法もあります。
あるいは、ボーナスが出た時だけ繰り上げ返済をするのも良いでしょう。
この「ハイブリッドな戦略」こそが、不安定な経済を生き抜く賢い方法です。
歴史的に見ても、株式市場の平均リターンは住宅ローンの金利を上回ることが多いのが現実です。
家を早く自分のものにするというプライドのために、複利の力を捨ててしまうのは非常にもったいない選択です。
プライドの代償と機会費用
借金がない状態は、心理的に大きな快感をもたらします。
でも、その快感のために将来の数千万円を犠牲にしているとしたらどうでしょうか。
インフレは、借金の実質的な価値を削ってくれます。
今日の30万円と20年後の30万円では、その価値は全く異なります。
それなのに、今の価値が高いお金を無理に「成長しない資産」である住宅ローンに注ぎ込むのは、経済合理性に欠けています。
多くの人が、50歳で1億円の価値がある家を持ちながら、手元の老後資金は心もとないという状況に陥っています。
家は住む場所であって、ATMではありません。
数字は嘘をつかない
「15年ローンで早く返せば安心」という言葉は、思考停止の罠かもしれません。
本当の安心とは、銀行の顔色を伺わずに済むだけの「手元資金」があることです。
そして、人生の波に合わせて支払額をコントロールできる「選択肢」を持っていることです。
もしあなたが今、15年ローンを検討しているなら。
あるいは、高い月々の支払いにストレスを感じているなら。
一度、住宅ローン計算機で30年プランの数字を出してみてください。
その差額でどれだけの心の平安と投資のチャンスが買えるか、真剣に計算してみる価値はあります。
壁の裏の含み益を眺めて満足するより、銀行口座の数字を自分の意思で動かせる状態を目指しましょう。
それが、本当のファイナンシャル・フリーダムへの第一歩なのです。