早期リタイアより『減給転換点』を狙え。黄金の手錠を外すためのFIRE計算活用術
今の仕事を一生続ける必要はありません。FIRE計算機を使って、低賃金でも好きな仕事へ移れる「ピボット・ポイント(減給転換点)」を見つける方法を解説します。
今朝、オフィスのドアを見つめながら車の中で45分間過ごしました。
あと何枚のスプレッドシートを修正すれば、合法的に森の中へ消えてもいいのか。それを必死に計算していました。これがいわゆる「黄金の手錠」です。高い給料や立派な役職と引き換えに、精神が少しずつ削り取られていく状態を指します。
多くの高所得者は、2億円や3億円という気の遠くなるような「完全なリタイア資金」を目指して、歯を食いしばっています。しかし、その数字に到達するまであと15年かかるなら、あなたの精神はその前に壊れてしまうかもしれません。
伝統的なFIRE(早期リタイア)は、ある意味で罠です。ゴールが遠すぎて、今の仕事が一生終わらない無期懲役のように感じられてしまうからです。
45分間の朝の絶望:なぜ伝統的なFIREは罠なのか
高所得者の多くは、実は働くことそのものをやめたいわけではありません。
尊敬できない人間のために大嫌いな作業をすることを、今すぐやめたいだけなのです。それなのに「二度と働かなくていい状態」を唯一のゴールに設定してしまうため、自由へのハードルが不必要に上がっています。
典型的な「One More Year(あと1年だけ)症候群」をご存知でしょうか。十分な資産があるにもかかわらず、恐怖から高ストレスな職場にしがみつき続ける現象です。
たとえ年収2,000万円あっても、夜も眠れず週末も仕事の通知に怯えているなら、その価値は「ぐっすり眠れる年収800万円の仕事」以下です。燃え尽き症候群が健康や人間関係に与えるダメージを考えれば、数学的な損失は計り知れません。
概念の再定義:ペイカット・ピボット・ポイントとは?
私が提案したいのは、完全な引退日を計算するのをやめることです。代わりに、ペイカット・ピボット・ポイント(減給転換点)を見つけましょう。
これは、積み上げた資産が「あとは放置しておくだけで、60歳までに完全なFIREの数字に到達する」状態を指します。専門用語では「Coast FIRE」と呼ばれるものです。
このポイントに到達すれば、追加の貯蓄はもういりません。生活費さえ稼げれば、どんなに給料が低くても、ストレスが少ない仕事に転職しても、あなたの老後の安泰は確定しています。
- Coast FIRE: 資産運用額が、複利の力だけで将来の目標額に届く段階。
- Barista FIRE: 資産からの少額の引き出しと、週数日のパートタイム仕事で生活を維持する段階。
営業部長を辞めて、地元のNPOのコーディネーターになる。時給制の法律事務所を離れて、週20時間のコンサルティングに切り替える。これが「ピボット」です。
基礎となるのは、有名なトリニティ・スタディに基づく4%ルールです。
年間支出の25倍があれば、理論上は資産を減らさずに暮らせます。しかし、ピボット・ポイントを目指すなら、この数字の半分、あるいは3分の1であっても、自由への切符になり得ます。
FIRE計算機をキャリア転換ツールとして使う
Fire Calculatorを開いてみてください。リタイアまでの年数という結果を、ビーチで過ごすまでのカウントダウンとして見るのはやめましょう。
それは「今の苦痛に耐える最終期限」です。
計算機を使って、自分のコースト(惰性)の数字をテストしてみます。例えば、年間の生活費を少し下げてみる。あるいは生活コストの低い地域への移住を想定するだけで、ピボット・ポイントは何年も前倒しになります。
ここで、以前相談に乗った友人の話をしましょう。
ケーススタディ:プリヤの決断
大手フィンテックでシニアプロダクトマネージャーをしていたプリヤは、週60時間労働と鳴り止まないチャット通知に疲れ果てていました。彼女はリタイアまであと15年は必要だと思っていましたが、正直に言えばあと15日ももたないと感じていたのです。
彼女の数字を整理してみます。
- 年収: 215,000ドル
- 現在の資産額: 450,000ドル
- 年間支出: 85,000ドル
- 貯蓄率: 55%
Fire Calculatorにこの数字を入れたとき、彼女は驚きました。すでにCoast FIREの数字を突破していたからです。
もし彼女が今日から1円も追加投資をしなくても、45万ドルの資産を年利7%(インフレ調整後4%)で運用すれば、60歳になる頃には210万ドル以上に膨らみます。これは、彼女の年間支出を支えるのに十分な額です。
結局、プリヤは年収7万ドルのフルリモートの仕事に転職しました。収入は支出に少し足りませんが、不足分は手元のバッファから少しずつ出せばいいと割り切ったのです。結果として、彼女は即座に週20時間の自由な時間を買い戻しました。
心理的シフト:貯金ではなく時間を買う
証券口座の残高を、単なる数字として見るのはやめましょう。それは有害な職場環境に対する保険です。
55歳まで必死に働いて贅沢なリタイアをするよりも、40歳で質素なリタイアをして好きな仕事を細々と続けるほうが、人生の質は圧倒的に高いはずです。55歳になったとき、お金を楽しむための健康が残っている保証はどこにもありません。
出費を考えるときも、金額ではなく自分の人生の時間で換算する癖をつけましょう。
月15万円の高級車のリース料は、単なる固定費ではありません。それは、あなたが自由を手に入れる時期を毎年4ヶ月ずつ遅らせていることに他なりません。
25倍の法則は、リタイア後もいくらか稼ぐつもりなら、もっと柔軟に運用できます。
| 貯蓄率 | FIREまでの年数 |
|---|---|
| 10% | 51年 |
| 25% | 32年 |
| 50% | 17年 |
| 75% | 7年 |
貯蓄率を25%から50%に上げるだけで、タイムラインは半分になります。これは投資額が増えるだけでなく、あなたが「より少ないお金で満足できる人間」になり、必要なFIREナンバー自体が下がるからです。
ピボットを実行するための3つのステップ
では、具体的にどう動くべきでしょうか。
- 支出を徹底的に可視化する: 測定できないものは最適化できません。自分の本当の生活費を知ることから始めます。
- バッファを確保する: ピボットには勇気がいります。生活費の1〜2年分の現金を確保しておけば、市場の暴落も怖くありません。
- インデックスファンドに居続ける: 複雑な手法は不要です。低コストのインデックスファンドが、あなたのピボットを支えるエンジンになります。
もし給料を下げた直後に暴落が起きたら、と不安になるかもしれません。しかし、だからこそのピボットです。あなたにはまだ働く能力があります。フルタイムに戻る必要はないかもしれませんが、少し労働時間を増やせば、資産の切り崩しを一時的に止めることは可能です。
結局のところ、FIREとは何もしないことではなく、選択肢を持つことなのです。
最後に
Fire Calculatorを使って、まずは自分の現状を直視してください。
あなたが今、オフィスの駐車場でハンドルを握りしめ、ため息をついているなら、もしかするとその苦しみは今日終わらせる準備ができているかもしれません。
必要なのは、あと1億円ではありません。 あと少しの勇気と、正確な現状把握。それだけです。
自由への扉の鍵は、すでにあなたのポケットに入っている可能性があります。ただ、それを差し込むべき「ピボット・ポイント」という鍵穴の存在を知らなかっただけなのです。